2026.01
ブルガリアには、チーズでもヨーグルトでもない、不思議な乳製品があります。その名は「カタク(Катък, Katak)」です。地域によっては、「クルクマチ(Крукмач, Krukmach)」、「クルトゥマチ(Куртмач, Kurtmach)」、「カトゥマチ(Катмач, Katmach)」などさまざまな呼び名があり、長く親しまれてきました。
カタクは、南ブルガリア、特にロドピ地方で作られていた羊乳の伝統的な保存食です。羊乳を弱火で長時間煮詰めて水分を飛ばし、少量の塩を加えて壺に詰め、冷暗所で発酵・熟成させます。冬を越すための貴重なタンパク源で、パンに塗ったり、肉料理の付け合わせとして食べたりしていました。
私も実際に作ってみましたが、羊乳は脂肪分が最も濃くなる8月末の搾乳でないとうまく固まらず、煮詰めるだけで3時間ほどかかりました。それでも、仕上がったものはチーズとヨーグルトの中間のような食感で、ほのかな甘みがあり、羊乳が苦手な私でも獣臭さを感じず、おいしく食べることができました。
しかし、冷蔵庫の普及や生活の変化により、この手間のかかる伝統製法は次第に姿を消していきます。現在では、赤パプリカを混ぜたヨーグルトサラダが「カタク」としてスーパーに並ぶのが一般的です。パンや肉料理のほか、前菜のサラダやワインやラキア(蒸留酒)のおつまみなどとしても楽しまれています。名前こそ同じですが、味も製法も本来のものとは大きく異なります。
さらに、多彩だった呼び名も「カタク」の一語にまとまりつつあり、伝統の本来の味とともに徐々に失われつつあります。実際、ブルガリア人の私の友人たちも伝統的なカタクを知る人はほとんどおらず、このまま消えてしまうのではないかと思うと、とても残念です。
羊の乳を鍋で煮詰めていく
弱火で煮詰めているところ。粒ができはじめたら、火からおろす
瓶に詰めて冷暗所で保管し、熟成させる
スーパーのサラダ売り場で売られているカタク
羊乳は市場で購入
スーパーで購入したカタクをパンに塗って